Topics 「新月伐採木セミナー」 出席報告  
大自然からの贈り物である木を、生活の中に息づかせる木工

工房 悠が作る木工家具の素材はもちろんです。この木というあまりにもありふれた素材にあらたな注目がそそがれていることは関係者としてはうれしい限りです。

は私たちにの生活において昔から最も身近な存在のひとつでした。大気や水と同様、樹木は地球の自然環境の循環体系の中枢をしめていますので、これなくしては生命体の維持は考えられませんし、私たちの生活の中での木の利用範囲も数え上げたらきりがありません。いま近代化がもたらした自然環境の破壊が進む中、良質の木を入手することも困難になりつつあることも事実ですが、私はあくまで木にこだわりたいと考えています。

それは石油などを原料とする無機質合成材料とは異なり、自然の恵みそのものですので、人間にとり安全、無害なものだからです。

またどれひとつとして同じ木目のものはなく、それぞれが自己主張するこの素材は、手仕事の対象としてはじめて生かされるのです。有機物質としての木は、製材、乾燥させて板にしてもなお反り、暴れますので、近代工業化社会の素材としては適性をかくものですが、日本の伝統的指物技術をもってすればこれらの問題は克服できるものです。 

工房悠は木匠(kodakumi)として、それぞれの木が持つ表情と生命力を作品に結実させ、皆様に提供したいと考えています。
次の資料に記しましたように、工房悠の用いる材種は、国産の良材にとどまらず、海外の銘木を取りそろえ在庫管理しています。
いずれも
原木丸太を入手し、これを製材、乾燥、管理していますので、良質な製品を適正価格で提供できる環境が整備されています。

  材 種 解 説
材 種
気乾比重
産 地 特  徴 サンプル写真
ミズなら 0.67 全国

北海道

日本は大量の外国産材を輸入しているなか、古くから今日まで輸出されている珍しい例です。年輪に沿って大きな導管が環状に並ぶ(環孔材と呼ぶ)、年輪が明瞭。柾目面では虎斑(とらふ)と呼ばれる紋様を呈します。
真 樺 0.69 北海道

本州中部

肌目は緻密。均質、重厚で強靱、対磨耗性大。
家具、特に洋家具、また建築の内装材としては高級材です。
み ず め 0.75 岩手県以南
心材は淡紅褐色、辺材は黄白色。木理は通直、肌目も緻密である。重硬なため加工性が困難だが、割れや狂いが少なく、靱性も大きい。家具の他、造作材、内装などに用いられる。
かばのき科だが、真樺とは大きく印象が異なり、より緻密、良質。
たも

ヤチダモ

0.65 北海道

本州中部

心材はくすんだ淡灰褐色、年輪がはっきりしている。成長がよく年輪幅が広いと比重がたかくなり、木材としては重硬になりバットなどに。成長が遅いと軽軟になり家具、指物に用いられる。

サンプル写真はちぢみ杢

き は だ 0.45 全国
心材は黄褐色を呈するためこの名がつく。
環孔材で、年輪ははっきりしている。指物、装飾材など。
内樹皮は鮮やかな黄色で、漢方薬の成分とされ、染料にも用いられる。
鬼 胡 桃 0.51 全国
辺材は灰白色、心材はくすんだ淡い褐色〜黄褐色。木理は交錯し肌目もやや粗いが、独特の光沢を持つ。軽軟で加工性良。割れ、狂いも少なく靱性も高い。
ブラック
ウォールナット
0.63 北米
辺材は灰褐色から黄褐色、心材はチョコレート色から紫赤色、紫黒色、つまりは色は一様でなく、縞状になり、美しい模様の材面が見られる。木理はしばしば不規則に交錯し、これが化粧的価値を高める。靱性が高く粘り強い。チーク、マホガニー、ローズウッドと並ぶ最高級材で、家具、銃床などに用いられる。
クラロ
ウォールナット

0.65 北米

カリフォルニア

ブラックウォールナットの亜種だが大変貴重な材種。主に北米西海岸に産する。幼木の頃、米国産ブラックウォールナットに西欧のウォールナットを接ぎ木したもの。(その痕跡が板上にくっきり残っている)
性質もブラックウォールナット以上に粘りがありきめが細かく、色調もとても複雑で多くの色が絡む。そのほとんどにちぢみ杢、こぶ杢などのさまざまな杢をかもす。入手困難で高価なためそのほとんどは突き板、合板にされ高級家具となるが、私の場合は丸太原木を入手し厚板、一枚板に製材している。
マホガニー 0.70 中南米

特に

ホンジョラス

マホガニーとは黄金色の意。ホンジョラスで産するものを、真性マホガニーなどと呼び最高級とされる。年月を経て光沢を増し美しくなる。淡紅褐色から暗褐色をして独特の光沢をもつ。
その材色をとり家具の着色法のひとつにマホガニー色というのがある位有名。緊密、重厚で粘りがあって加工性、耐久性に優れる。世界の代表的な銘木の一つとして高級家具、造船、楽器などに用いられる
メープル 0.70 北米

五大湖

心材は淡褐色から灰褐色で、辺材は白色から淡褐色を呈する。木理は通直または交錯しており(カーリーメィプル)肌目は緻密。重硬なため加工は困難。

サンプル写真はカーリーメープル

  

 かれこれ10年程前になるが、ある材木屋の土場に巨像の脚のごとき丸太が屹立していた。その荘厳な姿にはただただ圧倒された。
私が以前からj.ナカシマの作品集などで羨望の眼で見続け、何とか入手したいと考えていた
クラロウォールナットだ。直径4尺を越え、長さも8尺もあったろうか。なけなしの大枚をはたき購入し(その年の売り上げをほとんど投入)、ついに手に入れたのだ。

 はやる心を抑え、友人のアメリカ人木工家と私の親方に当たる人にに立ち会いを請い製材に臨んだ。残念ながらあまりの太さに、製材機の能力を超えたため、一部をチェンソーではつり製材機にかけた。
 ゆっくりゆっくりとバンドソーに丸太が移動し、独特の香気を放ちオガコが周囲に飛散し辺材から一枚一枚と板に製材されていく。私は監督者よろしく指示するだけだが、あまりの太さとこちらの指示する厚みがハンパではないため受ける職人も必死だ。辺材から鋸を入れていくわけで、なかに隠されて封印されている木の生命力ともいうべき心材部分が徐々にその姿を現してくる。

 私はたまらず小躍りしながらあまりのすばらしさに感嘆しつづめだった。切られた直後の板は他の樹種ではありえないような鮮やかな緑色と紫色のコンビネーションで、それはみるみるうちに酸化のため灰褐色へと変色していく。2寸板を中心として大テーブルに使える板が数枚とれ大成功だった。いずれも素直そうな木味の良い板だった。

 この板はその後5年ほど桟積み天然乾燥され、個展などのメイン作品として卓などに仕上げられ、こうした木の仕事に理解のあるお客様に買い上げられていき、大切に使われているのだが、木工業界一般ではこのような銘木、稀少材は化粧単板(突き板・・合板の材料)として紙より薄くされてしまうのだ。しかしやはり樹木本来の生命力、価値を正しく表現するする方法は、突き板での合板家具のほうではないだろう。

 その後3度ほどクラロウォールナットを入手し製材したが、この時の丸太を越える原木に出会うことはまだない。       

クラロウォールナットの巨体
4尺(約1.2m)を越える太さのクラロウォールナットの原木。
   
うなる製材機
製材機の最大限の能力を出し、切り裂かれる丸太。
  
切り裂いた幅広の板
厚板に製材された板はまだ濡れているため実に重い。