かれこれ10年程前になるが、ある材木屋の土場に巨像の脚のごとき丸太が屹立していた。その荘厳な姿にはただただ圧倒された。
私が以前からj.ナカシマの作品集などで羨望の眼で見続け、何とか入手したいと考えていたクラロウォールナットだ。直径4尺を越え、長さも8尺もあったろうか。なけなしの大枚をはたき購入し(その年の売り上げをほとんど投入)、ついに手に入れたのだ。
はやる心を抑え、友人のアメリカ人木工家と私の親方に当たる人にに立ち会いを請い製材に臨んだ。残念ながらあまりの太さに、製材機の能力を超えたため、一部をチェンソーではつり製材機にかけた。
ゆっくりゆっくりとバンドソーに丸太が移動し、独特の香気を放ちオガコが周囲に飛散し辺材から一枚一枚と板に製材されていく。私は監督者よろしく指示するだけだが、あまりの太さとこちらの指示する厚みがハンパではないため受ける職人も必死だ。辺材から鋸を入れていくわけで、なかに隠されて封印されている木の生命力ともいうべき心材部分が徐々にその姿を現してくる。
私はたまらず小躍りしながらあまりのすばらしさに感嘆しつづめだった。切られた直後の板は他の樹種ではありえないような鮮やかな緑色と紫色のコンビネーションで、それはみるみるうちに酸化のため灰褐色へと変色していく。2寸板を中心として大テーブルに使える板が数枚とれ大成功だった。いずれも素直そうな木味の良い板だった。
この板はその後5年ほど桟積み天然乾燥され、個展などのメイン作品として卓などに仕上げられ、こうした木の仕事に理解のあるお客様に買い上げられていき、大切に使われているのだが、木工業界一般ではこのような銘木、稀少材は化粧単板(突き板・・合板の材料)として紙より薄くされてしまうのだ。しかしやはり樹木本来の生命力、価値を正しく表現するする方法は、突き板での合板家具のほうではないだろう。
その後3度ほどクラロウォールナットを入手し製材したが、この時の丸太を越える原木に出会うことはまだない。
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