Monologue 2004

 真夏の交流と秋への準備
JUl.25.2004

この夏の暑さは尋常ではない。工房内でも日中は35°近くにもなる。大汗をかきながらの仕事になるが、ただ湿度計に目をやると、以外にもその数値は低く30〜50%程だ。
木工という有機素材を扱う仕事には悪くない環境だ。

以前このコーナーにも書いたが、数年前の夏はちょっと事情が違った。数回だが真夏の暑さと、大雨が繰り返し、異常ともいえる湿潤な気象状況が襲ったのだ。
全ての機械の定盤が結露でさび付いたのにも驚いたが、加工対象の木材への影響にはたいへん苦労をさせられた。
少し詳しく説明すると・・・、翌日の加工へ向け、既に木取りをして布団を被せ積み上げていた板であったものであったが、この夜の異常な湿潤な空気に、木口の部分が膨らんでしまったのだ。布団を被せたのはよいが、木口までは十分に隠せ仰せなかったという次第。
これは1本の棒として見た場合、中央部分に対して両際が太くなり通直であるべきラインが弓状になってしまい、その後のスミ付け、ほぞ付け加工に大いなる支障が出るということに他ならない。
この時はやむなく、この板を桟積みし、あらためて数日間環境に放置し慣らすことで対処せざるを得なかった。

この時の苦労を考えれば、今年の暑さも木を対象に考えればさほどのものではないというべきか。
木工はかくして、人間様をとりまく環境よりも、木への影響が如何なるものなのかを基準とした考えでなければならないということが自明なのです。

秋から年末へかけては展示会なども企画され忙しくなる気配があり、普段無沙汰をしている遠方のクライアント、友人との交流を集中的にこなした7月だった。

既に地元の方々、あるいはWebをよくチェックされている方々には目新しい情報ではないが、訪問の報告がてらご紹介するのも一興かもしれない。

ひとつは阪神地域、芦屋で木工家具のショップが新たにオープンしたので、これを表敬訪問させていただいた。

名称は「J・クオリア」という。JR芦屋から徒歩で10分の距離。閑静な高級住宅地の一角に位置する。オーナー所有の新築貸しビルの1階を使ってのショップだ。

取り扱われる家具は木工家具作家の作品が中心だ。
大阪は南河内で活動している3人の木工家、「岩崎久子」「林 靖介」「小山 亨」さん達。
昨年このコーナーで一度紹介している人たちだが、オーナーお気に入りの気鋭の木工家だ。
各々作風も異なり、また様々なカテゴリーのものを出品していて楽しめる。
今後はさらに洗練された木工小品も取り扱いたいとの意向を持っているようでもあるので、より楽しめる店舗に充実されていくようだ。
阪神地域にはおそらく多くのインテリアショップ、ユニークな家具屋があるだろう。この激戦区で注目されるスポットとして名を馳せるようになるためには様々な戦略と努力が必要とされるだろう。近々Webサイトの公開も予定されているようなので期待したい。(公開されましたらアナウンスします)

この消費不況のご時世、なかなか勇気ある新規店舗展開でもあるわけだが、じっくりと木工家具の啓蒙と普及を考えていらっしゃるようなので、大いに発憤して成功させて頂きたい。

■店名:Jクオリア
■代表:松下哲也
■住所:兵庫県芦屋市茶屋之町10-7
■Tel :0797-32-1010
■E-mail:j-qualia@bz01.plala.or.jp

名古屋郊外で木工教室を運営されている宮本良平さんという木工家がいる。
以前から相互Linkさせていただいているものの、訪問するのは初めてだ。
表敬訪問だったので、ごあいさつさせていただくだけでよかったのだが、丁度教室が開かれている時だったので、生徒の訓練光景を拝見させていただくことになった。

この宮本さんとの交流は遡ること、7年程前になるが、場所は確かNEC本社別館の会議場だった。木工家を対象としたインターネットに関わる研修会議でのことだ。その後数回お会いすることはあったものの、交流とまではいかなかったのだが、やはりWebサイト運営管理者という共通項がもたらしたものか、お互いに相互訪問するような関係が作られていった。

この宮本さん、海外の木工事情に通じていて、わけてもスエーデンはカペラゴーデンに留学をしているということもあり、好むデザイン様式、木工への志向などが共通することも多いということで、好感を持ってお付き合いさせて頂いている。

さて木工教室。まず驚いたのは施設の全容。手加工室、機械設備室、休憩室、作品収納室、他など内部の設備も含め充実した教室だ。
国内で一般に木工芸の教育施設といえば、美術大学の研究室、職業訓練校、あるいは工業試験場などであろうか。指導対象、カリキュラムの内容は各々特性があるだろう。
しかしここに宮本教室という個人運営の立派な現場があることを銘記せねばなるまい。

知人の木工家のなかにもかなりの人がこうした教育施設で講師をやっていたり、あるいは自分の工房を一定時間開放して、木工教室を運営している人もいる。しかし教室運営を前提とした施設を建築し、これに勤しんでいる人はこの宮本さん以外に果たしているだろうか。

優れた木工家でも、自分の制作活動だけでは生業として十分な収入が得られず、やむなく講師の職を得ているような人も多い中で、「木工教室」の看板を掲げ、これを見事に運営していることは立派なものだ。

この宮本教室の特異性を上げるとするならば、設備の充実にとどまらず、そのカリキュラムのユニークさも記さねばならない。

先に述べたように宮本さんの木工技能の修得コースはちょっとユニーク。
多くの木工関係者との交流の中から、世界でも最高レベルの木工学校とされるカール・マルムステン創立のカペラゴーデンを知り、ここのサマーセミナーに参加するなど国境を越えたスタンスでの技能修得だったようだ。

したがって教室でのカリキュラムでもこれらのエッセンスがちりばめられているであろうと思われる(短時間の視察だったので十分に確認されたわけではないが)。

これは作品保管室にさりげなく鎮座している旺盛な創作活動を見ればその一端がわかる。

おそらくは単にマルムステンスタイルのデザイン、技法を伝えるに留まらず、そのバックボーンにある木工芸への芸術的アプローチと、もの作りの喜び、社会的有意性を伝えるものであるのだろう。

「ビギナー相手だけではなく上級者へのさらなる高度のサポートをしていきたいが、講師の人的制約、時間的制約からなかなか難しい」旨の嘆きを吐露していたが、個人運営ではもとより、その制約は致し方ないであろうと思われる。

(詳細は宮本さんのwebサイトからどうぞ)

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