Monologue 2004

 木工職能における性差 ?
Feb.24.2004

工房近隣の住宅の庭、里山などの梅の花もほころび始めている。春の胎動です。

今月初旬あたりから、若いメール交歓相手からの朗報、あるいは新展開の報告が入り始めている。
いずれも木工を志し、訓練校入学へとアプローチした者、あるいは訓練校を卒業して、新たに職場を獲得した者、またどのような方法で学んでいったらよいか、相談を求めてアプローチしてくる者、様々だが、若い人々の木工への歩みは弛み無くいつも新鮮だ。
木工の世界に入り20年近く経過し、初発の思い、志しは消えてはいないか、現実社会の荒波の中で夢を捨て、変節してはいないか、若く清新な思考に触れることで、我が身の穢れに思いを致す。

その中のいくつかはネット上からの検索で、アプローチしてくる者のようだ。
webサイトを運営している以上、こうした人たちへのサポートは積極的にしていきたいと考えているが、見知らぬ人という制約下、メール文面からその人となりを判断し適切なサポートを心がけるようにしているが、こちらも人の子、どれだけ熱意があり、資質がどの程度ありそうなのかを無意識のなかで判断してしまっているかもしれない。

さて昨今の木工志願者の傾向として、ここ10年ほど男女の性差が無くなりつつあるように感じられる。
また全くの私見だが、女性の志願者は有能な人も多く、概して男子はどうも小粒にすぎるように見えてならない。
ところで、木工所などというところはそのほとんどは男の職場だった。だった、ということはこれが昨今変貌しつつあるのだ。統計的に数値を上げられるわけではないが、当地、静岡という木工産業産地の工場をちょっと覗いて見ればよい。
作業服に身を固めているので、一寸見には分からないが、浅めにかぶった帽子の下からは、化粧気はないものの、かわいい笑顔の妙齢な女性であることに気づくことは少なくない。

以前、世話になった訓練校の恩師から女生徒の就職斡旋を受けたことがあった。然るべくいくつかの工場へアプローチし、このなかで一社興味を示したところがあり、面接試験へとこぎ着け、結果採用となったのだが、採用に至るには社内では工場長はじめ反対論者が多かったようで、最後社長の決断で決まったそうだ。男女雇用均等法が施行された後も、やはり木工所などというところは実に前近代的雇用関係が当たり前。この時も「男の職場に女など・・・」という工場長は決してこの企業特有なケースではない。
しかし採用後、この女性の資質、努力のたまものと思われるが、今やこの工場長をして、男どもに向かって「お前ら、彼女をもっと見習え ! 」などとぞっこんなのだそうだ。おかげボクも感謝されるという事に相成った。

これは職人としての資質が性差に関わりないという評価と、一方それまでの男の職場としてのある種の殺伐とした雰囲気が、女性が一人闖入するだけで実におだやかになるというようにその効果は意外なものがあるようだ。

若い女性からの視点でこれを考えてみる。昨今では女性という性別がアプリオリに職種によって職業選択の取捨に関わるという概念そのものが希薄になってきているということは明らかなようだ。
自分の職業観、適性、好みなどで、木工、家具、インテリアが合うと思えばそこに男女差などという概念は、他の一般的な職種と同等程度にしか考えないのであろう。

また別の例を取ると、以前当時25才ほどだった訓練校在校生女性をあるギャラリーからの紹介で相談を受けたことがあった。実はこの時たまたま北海道、旭川の中堅どころの木工会社の新社屋竣工パーティーに出席し、新しいパンフレットを持ち帰っていて、この女性にこれを見せたところ、ぜひここへ入りたい、との強いアピール。
この会社の幹部と面識のある知人に紹介状を書いていただき、面接にこぎ着け、入社に成功。
しかし温暖な静岡の女性など、最厳寒地の旭川などでは1シーズンもやれば音を上げて帰ってくるだろうなどと高をくくっていたのだが、何と5年もがんばっちゃった人がいる。5年というのも、スキルアップのため次の職場をめざしたがためだ。しかも社長の慰留を振り切り退社したという経緯すらあるのだ。
果たして同年代の男性がこれまではやれたであろうかと考えると・・・??。
ボクはこの時、ご両親からよほど恨まれるのではと覚悟していたのだが、全くの杞憂で、夏は北海道内のドライブ、冬はスキーと、娘を追い、楽しんでいることに唖然 ! 。

木工の資質とはいっても多くの要素が含まれるものだが、総合的に考えて果たしてそこに男女の差はあるのだろうか。手先の器用さ、立体判断能力、デザイン能力、刃物の扱い能力、機械使いこなし能力、これらは性差というよりも個人差のほうが大きいでしょう。もちろん木工は重量物の扱いも必要になるし、大きな負荷がかかる機械加工などではハンデもあるだろう。しかし逆に女性ならではの繊細さ、デザイン力もある。
例えば刃物の研ぎだが、未熟な職人の場合、男は力任せに刃を付けようとして、いわゆる丸刃(まるっぱ)にしてしまいがち、対し女性は力が無いだけに、ゆっくりと、しかし比較的正しく研ぎ上げるという傾向があるようだ。
ことほど左様に、木工職能に性差がどのように影響するかは一概に断定などできないのだ。

どうも昨今の若い人を見ていると女は肝っ玉が据わり、フットワークが軽く、頭も良い。対し男は肝っ玉が小さく、フットワークは重く、頭も軽い。これは一体どうしたことか。

これまでボクの周りでのいくつかの卑近な例をあげたが、一方既に独立経営をされている女性木工家も多くいる。知人だけでも神奈川のSさん、大阪のIさん、ちょっとカテゴリーは異なるが、木のアクセサリーのKさんetc。

いずれも男のアプローチとは異なる独自の感性で木工界に切り込んできている。頼もしい限りだ。
こうした女性にエールを送りたいと思うが、しかしまだまだ業界には女性差別的な慣行、旧態依然たる因習、などもありストレスと苦労を味わうことも多いことと思う。しかしぜひ後に続く女性木工家の卵たちのためにも、未知の分野の開拓者としての誇りと勇気を持って勇躍奮闘していただきたい。

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